見守る子育て 最終更新日時:2024.08.29 (公開日:2023.11.30)

6000人の学習指導から確信した、子どもの学ぶ意欲を阻害する要因

6000人の学習指導から確信した、子どもの学ぶ意欲を阻害する要因

「わが子が勉強嫌いで困っている」とお悩みのお父さん・お母さんは、多いのではないのでしょうか。いったい、どのタイミングで何をきっかけに、子どもは勉強に対して苦手意識をもつようになるのでしょう。

こちらでは、子どもが勉強に対して苦手意識を持つようになる原因や、親ができるわが子への対策について、小川大介先生にお話を伺いました。

    Contents

  1. 「学ぶ」ということは、人間の本能的な欲求
  2. 子どもが勉強嫌いになるキッカケ

お話を伺った方

小川  大介

教育家・見守る子育て研究所 所長

小川 大介

1973年生まれ。京都大学法学部卒業。

私は学生時代から大手受験予備校、大手進学塾で看板講師として学習産業に関わってきました。
大学を卒業した後、ご縁をいただいて、社会人プロ講師によるコーチング主体の中学受験専門個別指導塾を創設し、以降18年間に渡って代表を務めてきました。

「学ぶ」ということは、人間の本能的な欲求

わが子が誕生したときのことを思い出してみてください。

産まれて3ヶ月ほど経つと少しずつ首がすわるようになり、6ヶ月も経つと目の焦点が合うようになり、自分とモノとの距離感を掴んでいきます。

まだしっかりと目は見えていなくても、見えないなりに自分の手で触れて確認しようとするようになったり、聞こえてきたことに反応したり、さまざまなことを吸収して探索活動をしていきます。

幼児期になると、毎日の生活や遊びの中で、言葉や数・量の概念、道具を使って何かを作り出すことや、他者の気持ちを理解することなどを学んでいきます。

これは、知識を得るための行動なのです。

思い返してみると、子どもたちは日常の何気ないことのなかに、好奇心や興味を見出し、反応し、彼らなりに表現しているということを実感するのではないでしょうか。

「幼児期の子どもは、常に吸収し学び続けている」ということについては、誰しもが異論はないと思います。

「知りたがり」というのは、人間の本能的な欲求です。赤ちゃんの頃から、本能で学び続けているのです。

一方で、私が中学受験の個別指導塾の代表を務めていた当時、親御さんに連れられて教室へやって来た4.5.6年生の子どもたちには、「学習が苦痛になっている」と話す子どもが多くいました。

相談に来る親御さんのほとんどが、

「子どもが勉強しない」
「やりたがらない」
「やる気がない」
「答えを写す」
「やってもやっても伸びない」

と、わが子の学習について、学ぶ意欲について困っているのです。

あれほど、知らないことが分かると目を輝かせていた「知りたがり」だった子どもが、わずか数年経って、「学習」ということに抵抗を覚えるこのギャップは、一体何なのでしょうか。

幼児期から小学校低学年のわずか数年間で、一体子どもに何が起きてるのだろう、ということに疑問を持ちましたし、非常に危機感を持ちました。

令和の過酷な子育て環境を生き抜くために大切なたった1つのこと
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子どもが勉強嫌いになるキッカケ

世の中には、幼児期向けの教育サービスや習い事は溢れています。

しかし私は、これまで6000人を超える子どもたちの学習指導に関わるなかで、「習い事や教育サービス(通信教育を含む)を全く受けることなく勉強嫌いになってしまった子どもは、見たことがない」ということに気がついたのです。

親の願いと逆行するように、「習い事や、教育サービスを受けてきた結果、子どもが勉強嫌いになっている」。なぜそんなことが起きるのか。世に提供されている教育サービスが、子どもたちが学ぶ本来の姿とは噛み合わない方法でなされていたのではないか。

もしくは、サービスの使い方として何か間違いが起きているから、子どもが勉強嫌いになるのではないか。私は、このように大きく2つの仮説を立てて、子どもたちの勉強嫌いという問題を検証することにしました。

具体的には「子どもが勉強嫌いになるタイミングはいつなんだろう」という観点で、学習カウンセリングに来る親や子どもたちに、その子どもの学習履歴(学習サービスや習い事)を幼少期まで遡って詳細にヒアリングを重ねていきました。

何千人もの親御さんと子どもたちに学習履歴を聞いていくうちに、どの子もみんな、「上手くいかなくなったときから嫌いになっている」ということが分かりました。

「算数の問題が解けなくて叱られた」
「分からないことを責められた」
「他の子と比べられて嫌になった」
「他にやりたいことがあるのに、勉強や宿題を理由にやりたいことをさせてもらえなかった」
「ドリルなどを早くから親に強いられて、それがノルマになり苦痛だった」

座学の勉強に限らず、音楽やスポーツのレッスンの先生の教え方が、「できないと褒めてくれない」とか、「できるまでやらされる」ということが、“何かを習う”ということに抵抗を覚える原因となった事例も数多くありました。

また、漢字のトメ・ハネなどを細かく指摘しては×をつけるような、駄目出しが好きなタイプの先生に小学校低学年の時期に当たると、学習するという意欲が削がれるケースもあります。

もちろん先生側にも細かく指導する理由はあると思います。漢字の細部まできっちりと書くことを早くから身につけることが、将来に生きるという信念を持った先生が少なくないことも知っています。

しかしそうした先生は残念ながら、技術的な学びの細部を身につけさせることにこだわるあまり、もっと大事な「学びに向かう子どもの心」をつぶしていることには目が向いていません。本末転倒なのです。

せっかく子どもに「学びたい」という気持ちがあっても、勉強で「正解・不正解」に囚われて「勉強させられている」と子どもが感じてしまうと、「学びたい」という欲求が削がれてしまうというのは、とても恐ろしいことです。教育者は、「表面的な正解」や「目先の問題を解決させるためだけのテクニック」のみを教えてしまうことの怖さを、しっかりと認識しておくことが重要です。

日本の旧来の教育法の大きな問題点の一つでもありますが、「正解することだけが正しい」という価値観は、子どもの学びたい気持ちを阻害するリスクをはらんでいるのです。そして、正解を出すまでの方法論の習得過程やテクニックを、「固定」する必要もないのです。

このような検証を通して私は、そもそも子どもは何のきっかけもなく突然「勉強嫌い」になっているのではなくて、大人たちの不適切な関わりによって勉強嫌いを生み出しているという確信を得ました。

多くの学習指導は子どもの成績の結果を最重要視するため、子どもに「勉強をさせよう」としますが、本来は「学びたい」という子どもの気持ちを大切にしつつ「勉強の仕方を教える」ところから向き合うことが大切です。

「勉強」は、正解が準備された問題を解くことで「学ぶ力」を高め、学んだ知識を「体系化」していくことにより、個別の知識を一定の原理に従って論理的に結びつけて整理することで、問題処理能力を向上させます。

つまり「勉強」は、学んだことを発揮する上での1つの訓練です。正解のある問題に触れるという方法を使う「予行練習」のようなものですね。

子ども本人が自ら学び取ろうとする姿勢を大人が尊重し、子ども本人が自分なりの方法で正解を見つけ出すことで、喜びの連鎖を起こすことが何よりも大切なのです。

「自分は学んで大丈夫なんだ、学んでいける人なんだ」という自信や信頼、安心感を子ども自身が培っていくことを大事にしていきたいですね。