近年、SNSで「親塾」という言葉を見かけるようになりました。
これは、親が塾の先生のように子どもの勉強に関わっていくことを表す言葉です。
しかし、実は親主導の中学受験は小5から失速しやすいと言われています。
それはなぜなのでしょうか。
今日は、この一見素晴らしい取組みに見える親塾に秘められた「危険性」についてお伝えします。
近年、SNSで「親塾」という言葉を見かけるようになりました。
これは、親が塾の先生のように子どもの勉強に関わっていくことを表す言葉です。
しかし、実は親主導の中学受験は小5から失速しやすいと言われています。
それはなぜなのでしょうか。
今日は、この一見素晴らしい取組みに見える親塾に秘められた「危険性」についてお伝えします。
教育家・見守る子育て研究所 所長
1973年生まれ。京都大学法学部卒業。
私は学生時代から大手受験予備校、大手進学塾で看板講師として学習産業に関わってきました。
大学を卒業した後、ご縁をいただいて、社会人プロ講師によるコーチング主体の中学受験専門個別指導塾を創設し、以降18年間に渡って代表を務めてきました。
まず、なぜそもそも「親塾」が増えているのでしょうか。
そこにはSNSの発達が関係していると考えられます。
SNSで個人の情報発信が容易になったことで、学習についての情報も得られやすくなりました。その結果、他の家庭での取組みや親としての言動にも簡単に触れることができるようになったのです。
その結果SNSでの情報で、親自身が学習についてのノウハウを得た気持ちになり、自身の子どもにそれを真似してやってみようという気になりやすくなりました。
ここでSNS上で目にする情報は、成功例に偏っているというところに注意が必要です。失敗した情報はあまり出回っておらず、あたかも家庭での勉強で必ず上手くいくような錯覚になりやすいのです。
またコロナ化にリモートワークが進んだことで、仕事をしながら子どもが勉強をしている光景が目に入り、手助けをしようと試みる親御さんも増えました。
リモートワークという環境がゆえに、親が子どもの勉強や中学受験にのめり込む環境が生まれやすくなったという構造的な要因があります。
その他にも、今の親御さんたちが子どもが幼い頃からとても丁寧に子育てをしていることも背景にあります。
いろいろなサービスや習い事に通わせ、とても丁寧に子どもと関わってきた親御さんにとっては、中学受験になった途端、急に塾にすべてを任せようという気持ちに切り替えられないという声もあるようです。
そのため、親の素直な愛情から親塾を行うことに繋がるケースも多々あります。
上記のような背景から親塾が行われ、小3、小4の勉強に親が関わって成績が良くなったご家庭でも、5年生になると必ずしもうまくいくいかないといった声を聞きます。
中学受験を考えるときに、小5という学年はとても重要な意味を持ちます。
5年生になると、算数では受験に必要な全単元を網羅的に学ぶ学年になります。
国語でも、論説文や物語、随筆、詩など文章ジャンルを一通り学びます。語彙力の面でも急にレベルが上がり、内容的にも抽象度の高い、大人の考え方を理解することが求められるようになってきます。
理科や社会の学習内容も、しっかりと踏み込んだものになっていきます。
このように、5年生になると単元という形ではっきりと縦割りになっていき、専門的な内容が深まっていきます。
その結果、多くの親御さんにとって手に終えない内容になり、時間的にも分量的にも子どもを手助けしていくのが難しくなってくるのです。
特に小5の夏休み以降は、以前習った基本知識を活用して、応用・発展的に思考する問題が増え、子ども自身が試行錯誤をしながら、答えを導き出すような問題が増えていきます。
子どもが自分なりに考えて検証し、詰まった時にはどのように考え直せば良いのかなど、子どもに頭の使い方を教えつつ、心のサポートも必要な段階に切り替わっていきます。
塾の先生は、先生という職業で子どもたちと接するため、先生の言うことならしぶしぶやる子どもでも、親がそれと同じようにしてしまうと親子関係が崩れてしまう危険性もあります。
このように、一気に指導の難易度が上がるのが小5なのです。
親塾が失敗しやすい事情として、母親という存在が子どもに受験学習を教えるのにあまり向いてないという点があります。
なぜかというと、母親は子どもが生まれた時からずっとその子を見ています。そのため子どもの細かなところによく気が付くのです。
細かいことに気づき過ぎてしまえる母親だからこそ、日々の細かなこと全部に口を挟んでしまう状態に陥りやすいんですね。
受験学習は子ども自身で勉強に取り組み、答え合わせをし、やり直しができるようになるのが外せない大事なポイントです。
その時に、あれもこれもと細かく口出しができてしまう母親の存在はむしろブレーキをかけてしまうことがあるのです。
一方父親はどうかというと、大失敗しているご家庭も少なくありません。
父親が受験学習に関わる際にやりがちなのがタスク管理です。
何をやるかタスクを全て書き出し、工程をあてはめて具体化させ、1週間の生活スケジュールの中に落とし込む進捗管理型の手法です。
この方法の注意点は、逆算思考を持ち込むことです。
中学受験の入試日をゴールとして設定し、その逆算でいつまでにこれができるようになるという学習計画は大体失敗してしまいます。
なぜなら、子どもは急速に変化するからです。
例えば、4年生時点で2年後を見越した計画をたてても、10ヶ月もすると全く別の計画にせざるを得ません。
できることが変わり、学習に取り組める時間数も変わり、関心の方向も変わる。
もしくは自信をなくして、苦手意識が芽生えてるかもしれません。子どもが変化し続けるため理屈上の逆算計画は役に立たなくなってしまうのです。
日々の成長度合いに応じて、計画を見直しすることが出来れば有効な学習法ですが、忙しい日々の生活の中で、そこまでのケアは難しいのではないでしょうか?
家庭とは子どもにとってどのような場所でしょうか。答えはホームです。
ホームとは、ほっとする場所のことです。寛げることができ、自分を取り繕うことなく素でいられる場所です。誰にとっても安らぎの場所は大事ですよね。
そのホームである家庭の中で、塾のような点数やタスク管理の要素を含む機能を親が担えばどうなるでしょうか。
今までの、自分は守られているという安心感を感じる健全な生活サイクルが狂い始めてしまいます。
家庭が本来持っている、寛ぎの場を失うというリスクがあるのが、親塾最大の怖さではないでしょうか。
親が子どもの学習に積極的に関わることは、悪いことではありません。
親主導の学習のリスクを理解した上で、適切な関わりを選択していただければ良いのです。
大切なことは、一見目先の学習は上手くいったかのように見えたものの、実は家庭に大きな問題を残してしまった、ということにならないようにすることです。
受験には、終わりがあります。ですが親子関係はずっと続くものですよね。
人生の一部分でしかない中学受験の時期に、どのように子どもと関わっていくのか、その考えるきっかけとなれば嬉しいです。